■球充填の問題(その2)

【1】極大格子

 単独で空間を充填する平面充填正多角形は3種類(正三角形・正方形・正六角形),空間充填正多面体は1種類(立方体)である.

 それに対して,4次元空間を1種類の正多胞体で埋めつくす図形は,正8胞体,正16胞体,正24胞体の3種類であり,4次元の最密正則胞体充填構造は,正24胞体で埋めつくされているときであることが知られている.

 正24胞体の頂点は正8胞体と正16胞体の頂点をなすことより,正24胞体は3次元の菱形12面体A3に対応するものであって,(3,4,3,3)は4次元版の菱形12面体による空間充填形に相当する.すなわち,それは4次元の面心立方格子といってよいものであって,4次元の最密正則胞体充填構造D4は正24胞体で埋めつくされているときであることが知られているというわけである.

 なお,n次元正単体とn次元立方体の対称群は,それぞれAn-1,Bn(Cn)で表されるのだが,24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られている.24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているらしく,この点もまた注目すべきものである.

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 そこで「単位格子群の2つの格子点の間の最小距離dminを最大にする格子群(極大格子群)を求めよ」というミニマックス問題が設定される.すなわち,正多角形,正多面体に限らない最密規則的充填構造は何かという問題である.→コラム「極大格子群とルート系」参照

 2次元では,与えられた最小距離をもつすべての格子中で,格子点密度のもっとも高いものは,正三角形格子(A2)ということになる.

 3次元では,すべての辺の長さが等しい平行六面体格子(菱形体格子)をつくってみると,辺が互いの60°の角度をなすようにしたとき,平行六面体の体積は最小値となる.これが面心立方格子状配置であって,その対称性はC3(立方体)ではなく,A3で与えられる.

 もっとも稠密な格子状球配置を求める問題はより高次元の空間においても考えることができるが,高次元空間においては,平面における正三角形格子や3次元空間における面心立方格子はもはや最密球配置を与えてはくれない.すなわち,4次元,5次元においては面心立方格子の類似品D4,D5となるのであるが,6次元についてはそのようなことも成立しなくなり,E6となる.

 これは次元の上昇とともに,超球の間の隙間が大きくなっていくからであるが,8次元になると面心立方格子に十分な隙間ができるので,112個の面心立方格子状配置の接触点

  1/√2(0,・・・,±1,0,・・・,±1,0・・・)   (±1の個数は2つ)

と128個の隙間の点

  1/√8(±1,±1,±1,±1,±1,±1,±1,±1)   (+の個数は偶数)

に同じ大きさの球が詰め込み可能になる.

 この詰め込みの断面が6次元と7次元のもっとも効率のいい格子状詰め込みE6,E7を与えてくれるというわけである.

 こうして,極大格子については,現在のところ,n≦8のみ答えが知られている.

 

n   ルート   格子点間距離           球充填密度

1         1                1

2   A2    4√(4/3)  =1.075    0.906

3   A3    6√2      =1.122    0.740

4   D4    8√4      =1.189    0.619

5   D5    10√8     =1.231    0.465

6   E6    12√(64/3)=1.290    0.373

7   E7    14√64    =1.346    0.295

8   E8    √2      =1.414    0.254

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 上の表で,球充填密度は

  vn(r/2)^n

として求めたものである.vnはn次元単位超球の体積で,

  v1=1,v2=π,vn/vn-2=2π/n (n≧3)

すなわち,

  vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)

によって与えられる.

  n    vn        n    vn

  1   2          6   5.167

  2   3.14        7   4.72 

  3   4.19        8   4.06 

  4   4.93        9   3.30 

  5   5.263        10   2.55 

 なお,一般に,n次元ユークリッド空間において,1つの単位球に同時に接触することのできる単位球の最大個数τn は接吻数(kissing number)あるいは接触数(contact number)と呼ばれていて,最密充填構造「同じ半径の球をできるだけ稠密詰めるにはどうしたらよいか」という空間の球による充填問題と深い関連がある.

 8次元の球の最大接触数τ8については,τ8の240個の点はE8型の単純リー代数の240個のルート格子で実現されるのだが,τnの正確な値を決定する問題は大変難しく,4次元以上の高次元については,高度に対称的な格子状配置になっている8次元(240個)と24次元(196560個)の場合を除いて未解決であり,現在,正確な値が知られているのは,τ1=2,τ2=6,τ3=12,τ4=24、τ8=240,τ24=196560の6つだけである.

 つまり,8次元と24次元は,接吻数が計算できる特殊な次元なのであり,都合のいい格子(8次元の場合,格子にはE8,24次元の場合,リーチ格子という名前が付いている)がひとつに決まるので,格子上に球を配置することによって,すぐに接吻数を数えることができる.したがって,24次元における効率的な詰め込みについての同様の結果はすでに求められていると思われるのだが,その結果を私は知らない・・・.

 

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